春先に地元のイベントの司会をした。同級生が実行委員で知り合いもボランティアとして多く参加している。気心知れた仲間に囲まれて仕事ができるのは楽しくありがたい。その時の舞台写真のなかに、奇跡の一枚とは真逆の写真があった。幼なじみのA子が送って来てくれたものだ。
先日、A子をまじえ小学校からの同級生女子四人でランチをした。席に着いたA子は開口一番「痩せたやん!」と私に言った。太ったと言われるよりは良いのだが、痩せたは、やつれた=老けた、に変換してしまい一瞬言葉につまった。「あの時(春先のイベント)コロッコロやったよ」。言葉が軽いのはどうやら褒めているようだが、気の抜けないニュアンスが含まれている。
私は太りも痩せもしておらず「変わってないけどなあ」と返すと「写真送ったやん。あれでも一番マシなん選んで加工してんよ」と言われ、例の一枚を思いだした。
しかし言われっぱなしも癪にさわり「あれは服のせい!」私なりの事実を口にした。ボリュームのあるトップス(ノースリーブ)とラフなパンツにフラットシューズと言う最悪な組み合わせをしてしまっていた。屋外のイベントに合わせて買ったのだが完全な失敗だった。
A子は私の抵抗を封じるように、「あれは服のせいちゃうって!二の腕は太っいし(力をこめ)顔はまん丸で姿勢は悪いし」容赦のなさは関係の近さと大阪人特有の会話の甘噛みみたいなものも含まれ、私だってA子に会うたび「ぶっちゃけ整形した?」とか聞く。(注・してない)
他の二人はその写真を見たいみたいとはしゃぎだす。「いくらでも見せるよ!」開き直ったものの、たまたまスマホの調子が悪く画像が呼び出せず、出し渋っているようで悔しい。しかし、あの写真の印象をあの場に居た人に残したと思うと半年前のこととは言えがっくりした。
元来お調子もののA子は、自分がふった話題がウケているので、私の二の腕がどれだけ太かったかを身振り手振りで話す。私はA子の細い腕をつかみ「分かったってば!もう!」と制するが、またその手をふりほどく。力が強い。他の二人はその様子を見て笑う。そう言えば昔から二人でこんなミニコントばかりみたいなことをしていた。だから息が合うのだ。気が合うのだ。10代に戻ったような感じがした。ひとしきり騒いだあと、
「だから痩せてて安心した」A子は小さな美しい顔で笑った。
A子は10代からモデルをしている。今もアンチエイジング系の化粧品のCMで『二十歳の息子の恋人に間違えられるんです』なんて言っている。その日はナチュラルメイクにシンプルな組み合わせの洋服に上品なジュエリーリングの定番ファッションで、黙っていたらどこの奥様かしら?って感じだ。
「耳の痛いこと言ってるのは、あ、え、て。私ら職種はちがうけど、表にでる仕事やねんから気を抜いたら終り。一歩舞台でたら背筋はピン!」他の二人が弾かれたように背筋を伸ばした。
女四人のおしゃべりは話題が次々と変わり、場所をカフェに移してケーキを食べて喉が枯れるほど笑っていると、いつしか写真のことも忘れていた。空が暗くなり始めていた。
家の方向が違う二人と別れ、私の車を止めさせてもらっているA子の家に戻った。A子は「ちょっと待ってて」家に入ると「これ持って帰り」と二つのお土産を差し出した。ランチの席で話題に出たシワ予防の美容液とイソフラボンのサプリだった。
「毎日、美容液塗って、サプリも忘れんと飲みや」母親みたいに念押しした。
私はもう、春に太って秋に痩せたことにして、今後は維持するね、みたいな体(てい)で礼を言った。とっぷり日が暮れた中、A子は華奢な腕をふって見送ってくれた。
『逆・奇跡の一枚』は戒めとして置いておくことにしよう。
